ルギアの心3

3章 本当の力・別れ



フラム達は東に向かう。グラエナの仲間達の仇をとるために。
しかし、お腹も減っている。アージェは一体どこまで餌をとっているのか・・・。フラムはため息ばかりはいている。こんなので仇をとれるのか心配である。
その時、
「・・・!? みえました!!あれがモモンの森です!」
グラエナが叫ぶ。
確かにみえる。森の外れの平原に森、実が沢山生っているのにその他野生獣の姿が一匹もない。
「わぉ!すげぇ!取ってくる!!」
フラムはそう叫び、一気に走りだした。危機感が全くない。
「ちょっ・・・、危ないですよ!!」
グラエナは呼び止めようとするがフラムには全く届かない。
フラムは木に飛びつき、さっさと登って行く。
「木登りが上手なんですね」
グラエナも驚きの様子だ。
フラムは枝からモモンの実をもぎ取るとグラエナの足元に落とした。
「持ち帰れるだけ持ち帰ろう!」
「そうですね。急いで持ち帰りましょう」
そう言った途端・・・。なにか高速の物体がフラムの頬を掠めた。
「っ・・・!」
フラムの頬に切傷。・・・、このスピード、カッターのような切傷・・・、グラエナの心に再び恐怖心が訪れた。
「こ、この技は・・・」
グラエナの声が震える。
「はっぱカッター??」
フラムも吃驚する。
「木からおりて!!はやく!!!」
グラエナが叫ぶ、フラムは木から飛びおり、走った。その瞬間、さっきまで登っていた木の地面が捲れあがり巨大な二本の触手が大空に伸びた。いや、触手だろうか・・、あれは「つるのムチ」だ。とてつもない威力だ。巻き込ませていたら即死だったろう・・・。
「ゴミ共が!俺様のナワバリをあらしてくれるとはぁ、いい度胸じゃあねえかぁ!!」
木をなぎ倒し、ウツボットが姿を現した。通常種のウツボットよりもはるかに大きい。とにかくでかい!
「そんな・・・・、私はもう・・・」
グラエナは目に涙を浮かべている。
「・・・・」
フラムは何も言えない。
「お?お前は、あの時にやられたグラエナじゃないか。お前の仲間は腐るほど弱かったな。その傷からにして直撃は避けたみたいだが、もうその体では避けられないだろ。お前から仲間の元に逝かせてやるよ」
ウツボットはニヤニヤしている。
「くっ・・・!!」
グラエナは歯を食いしばる。
「憎いか?俺が憎いか?ふん、仲間を守れなかった自分を憎むんだな!」
ウツボットはそう言うと、つるのムチを繰り出した。スピードが半端ない・・・。グラエナは避けきれない。腹に直撃をくらい、吹き飛ばされ、向かい側の崖に激突した。
グラエナ!!」
フラムが叫ぶ。
「はっ!カスすぎるな!そんなんで仇を討ちに来るとはぁ、冗談で決めるぞ!?」
ウツボットが怒鳴る。
フラムは変な違和感を覚えた。全身が熱く感じる。怒りなのか?それとも・・・、一体? 
その時、
「貴様も終わりだぁ!」
ウツボットのつるのムチが当たりフラムも吹っ飛ばされた。
・・・、
同時刻、アージェは海岸に到着していた。
「遅くなってごめんなさい、ご飯にしま・・・・??」
フラムがいない。次の瞬間、猛烈な爆発音が響いてきた。
「!! この音は!?」
アージェも危険を察知し、持っていた魚を放り投げ、音のする方へと飛んで行った。
・・・、
「え?これは一体?」
アージェも驚くしかない。巨大なウツボット相手にフラムが一匹で戦っている。しかし、そのフラムは傷だらけだ。とても勝てる相手ではない。アージェは海の神、海の神でもあの攻撃をまともにくらえば命が危ない。アージェは急降下の態勢に入ろうとした・・・が、へんな違和感を感じる。フラムだ。フラムから猛烈なエネルギー反応を感じる。アージェは身震いした。若さにしてまだ小学6年。技を始めて繰り出せるとして高校生。完全に我が物するまで大学生、早くて高校3年後期。
「ふ・・・フラム?」
アージェは助けるのをやめ、上空で見守っていた。
・・・、
「・・・あの一撃を受けて耐えるとはタフな奴だ」
ウツボットが言った途端、フラムは後ろに回り込んでいた。
「!?」
ウツボットは驚く。これは勿論、上空にいたアージェも驚いた。伝説の獣は目の反射神経と視力がとてつもなく高い。その目でも、フラムのスピードを捕らえられなかった。アージェでも無理なのならウツボットにも見える訳がない。一瞬の隙を突かれ、振り返ったウツボットだがもう遅い、フラムから放たれた巨大な火球がウツボットを呑み込む。
「ぎゃああああああ!」
ウツボットは草タイプ。猛烈な温度と威力を秘めた火球にその体は耐えられない。物凄い爆発が起こり、アージェも空中で姿勢を保つのが困難になった。ウツボットは消し飛んだ。煙が晴れ、所々焼けた草原が姿を現した。フラムはよろよろと歩きだし、グラエナが倒れている所に向かった。
「終わったよ。仇はしっかりととったよ。もう苦しい事もなにもないから、安心して仲間の所に行ってあげて・・・ね?」
フラムは冷たくなったグラエナの手を握り、そう言った。
日は結構傾き夕方に近くなってきている。フラムはモモンの実が入ったリュックを背負う。フラムはグラエナを埋葬した・・・、
お墓はモモンの森の少し丘。小さな墓石が夕陽を浴びてオレンジ色に光っている。一緒に採ったモモンの実を供えた。水滴が日の光に反射してキラキラ光っている。 フラムは無言のまま立ち上がると海岸に戻って行った。
・・・、
海岸にはアージェがいたが、フラムは木の根元に座り、オレンジ色の海を見つめていた。アージェに「夕ご飯」だと言われたが食べる気にもなれない。アージェはどう接したらいいのかわからず、落ち着かせるようにした。



夜は虫が一斉に鳴き出す。その鳴き声が、フラムにはとても悲しく聞えた。